弁護士9条の会・おおた
「これがいいたい!」一人一言
新自由主義的構造改革と改憲構想
 −自民党の改憲案を切る
船尾 徹

はじめに
 昨年11月に発表された自民党の「改憲草案大綱」(以下、「大綱」といいます)は、自民党としての「理想案」を追求した、文字通りの「全面的改憲案」でしたが、この8月1日に発表された自民党新憲法「第1次案」(以下、「第1次案」といいます)は、「大綱」とくらべて非常にスリムで、一見マイルドな改憲案となっています。なによりも民主党、公明党との合意を得られることを最優先にした改憲案にすることに腐心したものといえます。
 そこで、以下には、「第1次案」に至るまでの自民党の改憲構想を中心にして、今日の改憲構想が、この国をいかなる国家・社会にしようとしているのかみることにします。
 「第1次案」による改憲構想の最大の特徴ともいうべき柱は、ふたつあります。ひとつは、今日の国際社会にあって最も先駆的な平和憲法の「命」ともいうべき9条の改悪、もうひとつは、現行憲法の改正条項である96条の改憲発議の要件緩和です。
 そこにはこの国の「軍事大国化」をめざし、「新自由主義型」の国家へと転換しようとする今日の改憲構想が浮き彫りになっています。

1 「軍事大国化」の完成としての9条改憲
 「第1次案」による9条の改悪は、現憲法の「第2章 戦争放棄」を「第2章 安全保障」にして、平和憲法を全面的に破壊するものとなっています。その基本的内容は、「戦争放棄」、「戦力不保持」、「交戦権否認」の柱からなる「9条の構造」のうち、その核心ともいうべき現憲法9条2項の「戦力不保持」「交戦権否認」を完全に削除し、戦力と交戦権を肯定して、あらたに「自衛軍」の保持(9条の2の1項)を認めたものです。
 そして、「自衛軍」(自衛隊)の海外派兵を正当化し、海外で戦争する国家体制にするために、次の規定を設けました。

 「自衛軍は、自衛のために必要な限度での活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に協調して行われる活動並びに我が国の基本的な公共の秩序の維持のための活動を行うことができる」(9条の2の2項)

 「大綱」では、日米軍事同盟にもとづく派兵(「集団的自衛権」の行使)も、国連決議にもとづく武力行使に参加(「集団安全保障」)することも、規定上明瞭にした改憲案でした。これに比べて「第1次案」は、「国際的に協調して行われる活動」といったあいまいな規定のなかに、前者も後者も含めていづれも可能なものにし、しかも民主党・公明党の同意を得ようとするものです。こうして海外派兵された自衛隊は、米軍がはじめる戦争に参戦することのできる「海外侵攻型」の軍隊として活動できる道がひらかれるのです。
 「第1次案」の9条改憲構想の基本は、軍事大国化の完成に大きく立ちはだかっていた憲法9条の壁を突き破り、イラクに派兵された自衛隊が、多国籍軍の一翼として、アメリカとともに武力行使に参加し、この国を戦争することのできる「普通の国」にしようというものです。
 こうしたアメリカとの共同作戦を進めれば進めるほど、テロ、ゲリラを国内に呼びこむ結果となり、そのためのテロ対策のために、「我が国の基本的な公共の秩序の維持のための活動」として、自衛隊が日常的な警備活動を展開することになります。
 また、海外で本格的な戦争に参加する自衛隊の規律を強化するために、設置した「軍事裁判所」(76条3項)は、人権よりも「軍事的価値」を優位においた国家機構の一翼を担うのでしょう。同時に「第1次案」は、「普通の国」として、「社会的儀礼の範囲内にある場合」を政教分離原則より除外することによって、戦死者を祀る靖国神社への参拝等についての憲法上の障害である政教分離原則(20条3項)を緩和し、自衛隊員の「殉職」を迎える靖国神社を公認するための橋頭堡を得ようとしています。

2 新自由主義的構造改革のための改憲への「布石」
 ところで「第1次案」には、憲法改正の発議には、「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」を必要とする現行憲法改正条項(96条1項)を、「各議院の総議員の過半数の賛成」へと緩和する改憲案をうちだしています。こうした改憲案は、なにを志向しているのでしょうか。
 「第1次案」の改憲構想は、軍事大国化の障害物となっている9条の改憲を、当面の焦眉の課題として、その照準をあわせているのはまちがいありません。
 しかし、今日の改憲構想には、9条改憲による軍事大国日本をめざしているだけでなく、改憲をするためのハードルを「3分の2」から「過半数」へと低くする改憲により、9条改憲後においても連続的・段階的に改憲を積み重ね、憲法を全面的に改憲することによって、日本の国家・社会の構造・仕組を全面的に変えようとする「新自由主義的構造改革」というシナリオが存在しているのです。
 日本経団連の改憲案においても、「当面、最も求められる改革は、現実との乖離が大きい第9条2項(戦力の不保持)ならびに、今後の改正のために必要な第96条の2点と考えられる」(05年1月18日「わが国の基本問題を考える」)と提案しています。
 マスコミで先陣を切って改憲を扇動している読売新聞(7月8日)も、「第1次案」の直前に7月7日に自民党の「要綱 第1次素案」(以下、「第1次素案」といいます)が発表された際に、「改正が急がれる最優先項目は9条2項だ。自衛隊の海外での活動も憲法解釈で拡大することは、限界に来ている。要綱は、96条の国会の改正発議要件を緩和することも打ち出した。まず9条2項と96条の改正を実現すれば、風穴をあけることができる」と評価しています。
 憲法改正憲発議の要件緩和が、「新自由主義的構造改革」を中心とした改憲をスムースに推進するための「布石」として、今後、ますます重要な意味をもってくるのです。
 そのことを「第1次案」とこれまでに発表されている「大綱」なども含めて検討していくなかでみていきます。

3 経済のグローバリゼーションと9条改憲
 「新自由主義的構造改革」を実行していくための国家体制をめざした改憲構想を検討するまえに、改憲と経済のグローバリゼーションの進行との関連をみておく必要があります。
 今日の企業の生産規模は巨大化し、その活動は国境を越え、グローバルに展開しています。もちろん資本も国境を越えて海外に進出していきます。アメリカ、日本などの巨大化した今日の大企業の活動をみればすぐ明らかになるところですが、自国で生産して国内市場や海外に輸出するだけでなく、海外に進出して工場を建設し、そこを生産拠点にして生産したものを世界各地に売りさばくようになっています。輸出主導型大企業体制から多国籍企業型の構造へと転換したといってよいでしょう。こうした多国籍企業化・グローバル化した企業の活動は、世界の市場を股にかけて自由自在に機動的に行っていくことのできる安定した市場の秩序を、軍事力によって安全に確保することを求めるようになります。
 そこで、アメリカは、安定した世界市場の秩序を形成するために、日本やNATO諸国にも軍事分担を求め、日本にはその障害物となっている9条の改憲を執拗に迫っているのです。
 他方、日本企業においても多国籍企業化が著しく進行し、世界各地に進出しています。とくに80年代後半より賃金コストが低く、環境規制の緩いアジア諸国(中国、東南アジア、韓国、台湾、香港など)に集中して進出しています。こうした世界規模で展開する日本の多国籍企業・グローバル企業は、とくに政治的に不安定なアジア地域における海外市場で安全に活動していくために、アメリカと一体になった軍事的プレゼンスを求めるようになっているのです(以上は、渡辺治「憲法改正」旬報社 35頁以下)。
 こうして多国籍企業化した日本企業・財界は、「メイド・イン・ジャパンからメイド・バイ・ジャパンへ」に転換していることに適合する国の政治のあり方として、9条を改憲して「普通の国」になることを、要求するようになっているのです。
 例えば、03年1月1日日本経団連が発表した新ビジョン「活力と魅力溢れる日本をめざして」(「奥田ビジョン」とよばれています)は、「これまでの日本は、欧米の技術水準にキャッチアップすることに官民が総力をあげて取り組み、国内で生産した製品を国内市場のみならず海外に輸出するという『MADE“IN”JAPAN』の戦略で経済大国の地位を築いてきました。しかし、21世紀において日本は、世界のフロントランナーとして、未知の世界を切り拓いていくことが求められます。そこで、新ビジョンでは、日本がその潜在的な成長力を十二分に発揮できるようにするため、『MADE“BY”JAPAN』戦略の推進を訴えています」として、21世紀日本は、軍事大国化の障害となっている9条の改憲をめざすことを宣言しているのです。日本経団連は、今年に入って、「当面、最も求められる改革は、現実との乖離が大きい第9条2項(戦力の不保持)ならびに、今後の改正のために必要な第96条の二点と考えられる」(05年1月18日「わが国の基本問題を考える」)とする改憲構想を発表しています。
 こうした改憲要求は、財界の改憲構想に相次いで現れています(03年4月経済同友会「憲法問題調査会意見書」、04年12月17日日本商工会議所「憲法改正についての意見」)。

4 「新自由主義的構造改革」による「階層分化」
 経済のグローバル化の進展のもとで、多国籍企業・グローバル企業は、国際競争力の強化を求めて、激しくしのぎをけずっています。そこで、「高コスト構造の是正」による競争力を強化するために、年功賃金の正規雇用労働者をパートや派遣等の不安定・非正規雇用労働者に代替するため、さまざまなリストラを実行し、さらに賃金コストの低い海外(中国、東南アジア等)に生産拠点を移転して産業空洞化を進行させています。
 それだけでなく国際競争力を強化するためには、これまでの政治が多国籍大企業に課してきたさまざまな負担と規制(生存権・社会権を保障しようとする規制)の撤廃・緩和を要求し、多国籍大企業が野放図に活動・展開できる自由を回復するため(新自由主義)、徹底した構造改革、大企業本位の政治を要求するようになっているのです。
 構造改革は、一方では、福祉、医療、教育などの社会保障関係についての企業の負担の軽減(法人税の軽減、社会保険料の企業負担の軽減など)、財政構造改革、不良債権処理、医療・年金・介護保険・生活保護・児童扶養手当等の制度の改革を、他方では、規制緩和として、労働者保護法の改編(労働時間規制の緩和、有期雇用の拡大などの労働基準法の改悪、労働者派遣法の改悪など)、大店法による規制の緩和、農産物の自由化の推進等々を要求・実行してきたのです。
 これらの構造改革の実行により、(1)完全失業者311万人(失業率4・7%、若年層は10%)(04年10月)、(2)パート、アルバイト、派遣社員、契約社員など非正規雇用労働者1563万人、雇用労働者全体の31・5%(男性16・3%、女性51・6%)(04年9月)、99年28%だった非正規雇用労働者の比率が03年には35%(「就業形態の多様化に関する総合実体調査」厚労省調査)、(3)非正規雇用労働者の78%が月額賃金20万円以下(03年厚労省調査)、(4)いわゆるフリーター約400万人、ニート約68万人、(5)国民1世帯あたり平均所得2・1%(約13万円)減少、生活が苦しいとした世帯50%以上(03年厚労省調査)、「貯蓄なし」世帯が2割超、雇用者報酬(給与・賞与)の前年度比は、01年度1.2%減、02年度2.3%減、03年度1.0%減、04年度0.1%減、4年間で11兆円もの低下、(6)自己破産 年間24万件(03年)、(7)自殺者3万4427人(対前年7・1%増)、失業・生活苦など8897人(対前年12・1%増)(03年)、4年間で約13万人、(8)世帯ごとの所得の格差を示す指標が過去最高(04年6月厚労省調査)、(9)他方では、リストラ支援の産業再生法によって、政府は大企業に、99年から04年3月末までに、9万4000人以上の人員削減計画に対して、870億円以上の税金の減免の実施し、(10)上場企業の連結経常利益合計20兆2870億円(04年3月期、対前年27%増)、トヨタ自動車1兆7657億円、NTT1兆5273億円といった状況となっているのです。
 その結果、日本の社会は「中間層」が急速に縮小し、「上層」と「下層」へと階層分化が急速に進行し、「勝ち組」「負け組」といった「階層型社会」・「格差社会」の出現が論議されるほどの状況になってきました。

5 「階層型社会・国家構想」と改憲案
 現憲法による人権保障は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(25条)として、所得の多寡をとわず、すべての国民に国家の責任による福祉・その他公共サービスを平等に享受できる権利を保障し、少なくも最低限保障されなければならないナショナルミニマムとしての生存権を保障することを、国家の責任としているのです。
 これに対して、新自由主義型の改憲構想は、構造改革によって生み出される「階層型社会」を「自己責任」の名のもとに受容することを、国民の責任として求め、国家の責任を縮小し、そこに市場化・民営化を導入し、階層分化をいっそう拡大しようとしています。
 日経新聞は、「規制改革で官が出てくる領域を狭めるしかない。福祉国家目標の根拠となっている25条の問い直しがまず迫られる」として、この「階層型社会」を最も純化した改憲案を発表しています。
 読売新聞第「3次試案」の改憲案も、「国民は、自己の努力と相互の協力により、社会福祉及び社会保障の向上及び増進を図るものとする」としています。
 「大綱」の改憲構想は、「自己責任」イデオロギーが顕著で、「新自由主義型」の改憲構想の典型といってよいでしょう。「大綱」は、現憲法の25条をプログラム規定へと改憲し、国家の責任であるべきナショナル・ミニマムとしての生存権保障を後退させ、社会保障の領域にもできるだけ「市場原理」を導入し、「国防の責務」「国家緊急事態における協力義務」とならんで、「社会保障その他の社会的費用を負担する責務」を「国民の責務」として規定しているのです。「自己責任」で、つまり、みずからの所得で福祉サービスを購入しなさいという方向を、より前面に出したものといってよいものです。
 「市場原理」に投げ出され、「国民の責務」としての「社会保障その他の社会的費用」を負担できない者には、福祉サービスを受ける人権は保障されないことになっていくでしょう。こうした改憲構想は人権保障機能を著しく低下させます。
 すでに介護保険制度のもとで保険料を支払えない者には、介護サービスを受ける権利を得ることができません。介護保険適用サービスと保険外サービスの「混合介護利用」(社会保障の「2階建化」)は、所得の多寡によって介護サービスの水準が格差化されていることを意味します。「階層型福祉」が制度化されているのです。
 だれでも所得の多寡にかかわらず適切な治療がうけられる医療制度に、「混合診療」を解禁して導入していくと、保険診療で運用される国家の責任としての公的医療保険をスリムにし、保険外診療部分を大きくすることによって、所得を多く有する者は保険外診療部分の先進的な医療を受けることができるけれども、所得の少ない者は保険診療でそこそこの治療しかうけられないといった「階層型医療」が制度化されていくことになります。
 教育制度においても、公的教育をスリムにして、教育制度を多様化・格差化して、その所得の多寡に応じて、それぞれのニーズに対応した「階層型教育」を導入しようとしています。
 公的サービスとしての保育サービスの市場化は、かなり進行しています。通常保育のほかにさまざまなオプションとしての商品(延長保育、子育て支援事業、英語教育、スイミング指導、朝食サービス、アトピー代替食、クリーニングサービスなど)が、オプションサービスとなっています。こうなると所得の多寡によって、保育サービスの内容が決定され、「階層型保育」が制度化されているのです。
 「第1次案」は、「国民の責務」として、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚しつつ、常に公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を有する」として、「大綱」のような露骨な表現をとってはいませんが、「責任及び義務」を履行できない者の人権保障は、「大綱」とおなじものを求めているのではないでしょうか。「第1次案」も、「階層型社会・国家」を、国民の責任にもとづいて受容することを求めている改憲案といってよいでしょう。
 また、「第1次案」は、基本的人権の行使にあたって、「公益及び公の秩序」に反しないことを要求しています。「公益」「公の秩序」といった抽象的・一般的内容・目的に人権を従属させ、とりわけ反政府的な言論・政治的表現の自由に対する制限・規制をも正当化してしまう危険性は高くなるでしょう。最近のビラ配布事件の頻発を想起すると、残念ながらそれは杞憂のものではありません。
 すべての国民に行うべき国家としての責任・公的サービスを縮小して、そこに市場化・民営化を導入し、国民の責任のもとに「階層型社会」を受容させようとする新自由主義型の改憲構想は、「権力制限規範」としての憲法を転倒させる基本的考え方と軌を一にしているのでしょう。
 もともと民主主義に立脚した憲法は、国家権力の恣意的専制を抑制するため、国家権力が憲法を遵守しなければならない「権力制限規範」として存在し運用されることを本質としています(立憲民主主義)。しかし、「大綱」や「第1次案」は、憲法を国民が遵守しなければならない「国民の行為規範」へと転倒させ、「国民の責務」を前面に押し出しているのです。

6 新自由主義的構造改革を効率的・強権的に推進するための改憲案
 「大綱」は、さまざまな分野に「階層型社会」をもたらす新自由主義的構造改革を推進するために、より効率的・強権的な統治機構の改編を意図しています。
 例えば、「道州制」の導入を前提に、参議院を道州議員によって選出される議員と有識者からの任命による議員によって構成されるものとしています。
 そのうえで「大綱」は、「参議院議員の選出方法を道州議会による間接選挙と任命制に変えることに伴い、衆議院が唯一の直接公選の国民代表機関となることから、国民主権の原理に基づきその権能を強化し、法律案、予算案、外交関係の事案(条約と大使の任命)については、現行憲法の定める衆議院の優越条項をさらに強化」する改憲案(「法律案については、衆議院の再議決の要件を現行の3分の2から過半数にするとともに、みなし否決の要件とされる期間も現行の60日から30日に短縮」、「予算案・条約承認については、両院の議決が一致しないときに現行憲法では必要的とされている両院協議会の開催を、衆議院の意向による任意のものとし、予算の早期確定と衆議院の優越の強化の下に予算の早期確定」など)を提起しています。
 また、「大綱」は、「首相権限」を強化するために、「行政権の主体を『内閣』ではなくて『内閣総理大臣』と規定することによって、首相のリーダーシップがより実効的に発揮できる制度」に改変することを意図してしていました。04年夏に発表された民主党の「憲法提言中間報告」も、構造改革を迅速に実行するために、「行政権は内閣総理大臣に属する」と変えようとしています。
 参議院の地位・権能を低下させ、衆議院の優越事項をいっそう強化し、さらに行政権を内閣から内閣総理大臣への集中・強化すること(「行政権は、内閣総理大臣に属する」)を意図した改憲案は、新自由主義的構造改革を効率的・強権的に推進しようとする統治機構を改編しようとしているのです。
 もちろん、「大綱」によるこうした参議院軽視の改憲案は、自民党内からも批判をうけ、「第1次案」では消えています。「首相権限」の強化については、「第1次案」は、ほぼ現行憲法(第65条)通りにとどまっています。ただ、内閣総理大臣の職務権限を「行政各部を指揮監督」のみならず、「総合調整を行う」ことを明確に打ち出して、そのリーダーシップを強化しようとしています。
 また、グローバル企業の活動にとっては、許認可や規制が都道府県単位では狭すぎて効率的でないことから、首都圏単位で活動が自由に行える「道州制」を導入することを、「大綱」と「第1次案」のいづれも提案しているのです(渡辺治 前掲86頁)。

7 新自由主義的構造改革と「地方自治」の破壊
 真に住民のための地方自治・地方分権の実現をめざそうとする改革が、公共サービス、とりわけ住民生活関連行政に対する国の責任を縮小し、自治体にその責任・権限を移譲(丸投げ)し、公共サービスの削減・スリム化を明確に志向した新自由主義的構造改革を遂行するための国家機構の改編にとりこまれ、そのための改憲に向かっていく危険性のあることを指摘しないわけにはいきません。
 「大綱」は、自治体の種類については、広域的な自治体である道州と、基礎的自治体である市町村の2層制を基本にした「道州制」を提案し、「市町村こそが基礎的自治体として、基本的に地域の事務を処理すること、道州は広域的自治体として、市町村にできないことを中心に事務処理をすることを定め、いわゆる「補完性の原則」を明らかにしたものと指摘されています。
 「第1次案」も「地方自治における行政は、基礎地方自治体によることを基本とし、広域地方自治体は、これを補完する役割を担う」(91条の5の2項)ものとして「道州制」を導入しようとしています。
 「新自由主義的構造改革」の一環として、日本列島の各地で行われている「市町村合併」も、都道府県の再編成と道州制による広域行政化の推進、国から地方への権限移譲、税・財源の移譲、交付税制度の廃止・縮小、交付金の削減(いわゆる「三位一体改革」)等と連動した広域的地方分権推進の「受け皿」として構想されています。こうして国の責任のもとに実施されるべき公共サービス部門を効率化・スリム化し、行政経費の削減を推進しようとするものです。
 それは、福祉、教育、介護、医療等の社会保障関係の公共サービスなど、住民に身近な行政についての国の責任と実施を、基礎的自治体に転嫁し、国としての責任を回避するものです。例えば、医療保険、介護保険の保険料が十分に集まらない自治体は、その範囲でその自治体の責任でやってくださいということになります(自治体の「自己責任」・地域的受益者負担主義の徹底)。
 国は、社会保障・社会福祉増進の義務・責任を自治体に肩代わりさせながら、その財源を自治体まかせにしているのです。
 「第1次案」は、こういった方向をめざした改憲案として、「地方自治体の経費は、その分担する役割及び責任に応じ、地方税のほか、当該地方自治体が自主的に使途を定めることができる財産をもってその財源に充てることを基本にする」(94条の2の1項)を提案しているのです。
 また、住民に対しても、「住民は、その属する地方自治体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を公正に分任する義務を負う」(91条の3の2項)として、地域住民の「自己責任」に基づく負担で、自治体による公共サービスを享受すべきとしているのです。
 こうして自治体の財政力の格差が、そのまま各自治体の福祉・教育・介護・医療等のサービス水準の格差として放置され、国の役割は外交と防衛に特化し、それ以外の広域的行政を道州に移管することによって、国と地方自治体との関係を含めて、この国の統治機構全体を再編しようとするものです。
 憲法のもとで保障してきた地方自治制度の根幹を破壊し、社会保障・福祉等に対する国の責務を放棄し、自治体の自己責任とする地域的受益者負担主義の徹底が、住民になにをもたらすかは明白です。
 全体として「大綱」よりも「第1次案」による改憲案はスリムになっているなかで、こうした自民党の改憲案と構造改革を迅速に実行しようとする民主党の改憲案とが一致しているだけに、「地方自治」に関する改憲案が異様にボリュームのあるものとなっていることに注意です。

8 「階層型社会」に統合・支配するための治安強化
 一方においては、リストラによって解雇されたり、パート、アルバイト等の不安定雇用とされ、経済的に困窮を余儀なくされている状況が進行し、他方においては、そのような状況に陥ったときに必要となるセーフティネットである福祉、教育、介護、医療などの社会保障に基づく公的サービスの享受が、所得の多寡に応じた格差をつけられ、その人権保障機能が著しく低下する状況が進行しています。
 「階層型社会」が進行するなかで、「自己責任」のもとに市場に放り出され、こうした社会保障サービスを購入することができない「下層」の不安は、保守2大政党制のもとで新自由主義的構造改革に反対する政治的チャンネルを失い、いつ暴発するかわからないものとして、治安問題視されるようになっています。
 こうして新自由主義的改革のもとで形成されてきた「階層型社会」は、「下層」に対する治安の強化を打ち出して、この社会を統合・支配を、なんとか安定させようとする国家構想をうちだすようになっています(渡辺治 前掲81頁)。自民党、民主党、公明党のいづれも、「安全な社会」をスローガンにして「警察制度の強化」を要求するようになっているのです。
 03年8月26日に警察庁の発表した「緊急治安対策プログラム」は、「平成14年の犯罪認知件数285万3739件と7年連続で戦後最多を記録し、刑法犯検挙率は過去最低の水準」であるとして、「本年を『治安回復元年』とすべく、『日本の誇る治安の復活』・・・を基本課題として取組みを進め」、「危険水域にある治安情勢の下、犯罪の増加の基調に早急に歯止めをかけ、国民の不安を解消するため、ここに当面、緊急かつ重点的に取り組んでいく治安対策のプログラムを策定し」、「国民が安心してして暮らせる安全な社会の確立を目指していくこととする」「安全な街づくりや犯罪を許さない環境の醸成等に取り組んでいる地域社会、地方公共団体、関係機関等と連携し、社会の犯罪抑止機能の強化、すなわち『犯罪に強い社会』をめざしていく」ことを打ち出しています。
 04年12月18日には、犯罪対策閣僚会議も、「治安水準の悪化と国民の不安感の増大」といった状況認識のもとに、「世界一安全な国、日本の復活を目指し、ここに犯罪に強い社会の実現のための行動計画を策定し、その実現に向けた一歩を踏む出すものである」、「重点課題のひとつとして地域連帯の再生と安全で安心なまちづくりの実現」を強調するようになっています。
 04年(平成16年)版「警察白書」の特集テーマは「地域社会との連帯」として、「治安悪化の一因に規範意識の低下や住民相互の人間関係の希薄化があり、これらをいかにして改善するかが治安回復の鍵」であるとして、「治安の回復には、警察のパトロールや犯罪の取締りだけではなく、警察と関係機関、地域住民が連携した社会全体での取組みが必要であることから」「犯罪に強い社会の実現のための行動計画においても・・・・犯罪の生じにくい社会環境の整備と、国民自らの安全を確保するための活動の支援を進めるべき」であるとしています。
 こうして、現在までに約1500の自治体で「生活安全条例」が制定され、警察、自治体、企業、学校、地域住民一体となった防犯組織・体制=重層的な相互監視ネットワーク・社会が形成されようとしているのです。
 プライバシーが公権力等によって日常的・系統的に監視・統制される社会=地域ぐるみの相互監視社会が市民自身のなかに一定程度受容されていくもとで、政治的表現の自由の行使としてのビラ配布のためのマンションへの平穏な出入りが、警察によって市民のプライバシー・被害者感情(不快感)と意識的に衝突させられ、政治的表現の自由が排除される事件が、最近、頻発するようになっているのも、以上の治安の強化と無関係ではありません。

9 「共同体型」=ナショナリズム型社会構想と改憲案
 新自由主義的構造改革がもたらす「階層型社会」が、国民を「上層」と「下層」へと階層化する動きに対して、国民全体を統合するためには、非階層的で、「共同体型」=ナショナリズム型の国家構想をめざした改憲案も登場してきています。
 「大綱」は、一方では「階層型社会」を形成しようとする国家構想に基づく改憲案を提案していながら、他方では「共同体型」の国家構想に基づく改憲案をも提出しているのです。
 その「前文」には、「これからの我が国の進むべき方向性を指し示した新たな国家像(憲法像)」として「我が国のこれまでの歴史、伝統及び文化に根ざした固有の価値」=「国柄をその応用型として構築することは、『日本の顔』が見える新しい憲法の重要な要素である」、「誤った個人偏重主義を正すために、「公共(国家や社会)の正しい意味を再確認させること」を基調とした改憲構想は、あきらかに「共同体型」のものです。
 また、「国及び地方自治体は、家庭が社会生活において大切な共同体であり、子どもの健全育成の基盤であることにかんがみ、その社会的、経済的及び法的保護を保障するものとすること」を強調しているのも、「階層化社会」の進行に対して、「『家庭』は、社会や国家という『公共』を構成する最小の単位」、「不可欠な共同体」として、「共同体」の再建による国家構想に基づく改憲案をめざしたものです。読売新聞第3次試案の「家族は社会の基礎として保護されなければならない」とする改憲案も、「共同体型」を構想しているとみてよいでしょう。
 また、「第1次素案」の「前文」にも、「現行憲法に欠けている日本の国土、自然、歴史、文化など、国の生成発展についての記述を加え、国民が誇り得る前文とする」としてナショナリズムを強調し、「我々は多元的な価値を認め、和の精神をもって国の繁栄をはかり、国民統合の象徴たる天皇と共に歴史を刻んできた」、「明治憲法(大日本帝国憲法)、昭和憲法(現行日本国憲法)の歴史的意義を踏まえ、日本史上、初めて国民みずから主体的に憲法を定める時期に到達した」として、戦前と戦後を連続した「歴史意識」に基づく改憲案を提出しているのです。
 ですから今日の教育基本法改悪の動きには、「新自由主義型」のみならず、「伝統」「国を愛する心」を強調する「ナショナリズム型」の動きもそこに合流し、教育基本法改悪を推進しようとしているとみるべきなのでしょう。

10 壮大な改憲阻止運動のために
 憲法9条の改憲を推進し、この国を軍事大国化しようとする動きには、経済のグローバル化=輸出主導型から多国籍企業型への転換が背景になっています。
 この経済のグローバル化は、多国籍大企業の国際競争力の強化のために、新自由主義的構造改革を推進しています。その結果、「階層化社会」「格差社会」が、さまざまな分野で進行し、多くの国民を「下層」に追い込み、深刻な「痛み」をもたらしているのです。
 したがって、9条改憲阻止の運動とさまざまな分野における新自由主義的構造改革に反対する運動とが連帯した、ひとまわりもふたまわりも大きな改憲阻止運動が、いま、求められているのです。

←「これがいいたい!」一人一言トップへ戻る
弁護士9条の会・おおたのアピール
活動紹介
弁護士9条の会・おおたの企画紹介
「これがいいたい!」一人一言
憲法についてのQ&A
大田区における9条の会の活動
学習参考文献など
映画で考える「平和」
自民党新憲法草案批判