弁護士9条の会・おおた
「これがいいたい!」一人一言
歴史に学ぶことの大切さを改めて考える
半藤一利著「昭和史」と日中韓3国共通歴史教材委員会「未来を開く歴史」
海部幸造

1 半籐一利著「昭和史」(平凡社)がベストセラーになっているそうです。
 1926年(昭和元年)から敗戦の1945年までが文字通り「語られ」ています。
 もともと、若い編集者達に「学校では殆ど習わなかったので昭和史のシの字も知らない私達世代のために手ほどき的授業を」してほしいと執拗に説得された筆者が15回にわたって授業をしたものを本にしたものであり(本書あとがき)、昭和天皇を含め時々の政権担当者や陸軍・海軍の軍人たちが、いつ、どのように語りどう行動したかを、資料に基づいて、話し言葉で書いているため、大変読みやすくて面白い。
 また、著者が文藝春秋等の編集長であっただけあって、軍人・政治家らの言動のみならず、芥川龍之介や永井荷風といった人々の文章や日記にもふれ、庶民の感覚等も織り込んで、内容的にもふくらみを感じさせます。他方、ジャーナリズムに対する見方には大変厳しいものがあります。例えば、満州事変の際などにも、当時の新聞・ラジオが一斉に太鼓をたたいて国民を戦争に向けてあおっていった責任に厳しく言及しています。あの「天声人語」の荒垣秀雄氏も満州事変当時はこんな記事を書いていたんだと、認識を新たにさせられます。全く今のマスメディアは何を学んできているのだろう。同じ過ちを繰り返そうとしているようにしか思えません。
 本書は、戦争に向かう日本の為政者達の愚かさと無責任さ、国民を戦争にあおりたてたたマスコミ、それにあおられ社会風潮に流されてゆく国民、そして戦争が民衆にもたらした悲惨な結果を描きだし、歴史に学ぶことの大切さを説いています。本書は、戦前史を学ぶ上で、良心的に、丁寧に語られた好著であろうと思います。
 折しも、扶桑社の歴史教科書の採択が大きな問題となり、小泉首相の靖国公式参拝に声が保守派の内部や海外からも大きな反対の声が広がっています。いずれも歴史をどう学ぶか、の問題ですし、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起きることのないようにすることを決意し」確定された日本国憲法を変えてしまおうという動きも、まさにこうした歴史認識の問題でもあります。敗戦60周年と言う時期もあるのかもしれませんが、こうした社会状況の中で本書が大きな関心を呼んでベストセラーになるというのは、大変心強いことのように思われます。

2 もっとも、この「昭和史」に不満が無いわけではありません。一番気になったのは、日本によるアジア民衆に対する侵略行為についての記載が薄いことです、とくに真珠湾開戦以後の記述においては、戦争の状況展開、そこでの陸・海軍指導者、政権担当者達の愚かさ、無責任さの記述が主となって、侵略行為、加害行為(強制連行、従軍慰安婦等)についての記載が、開戦以前についての記述と比べても薄くなってしまっています(「授業時間」の都合かもしれません。ちなみに著者は、南京虐殺事件については、「旧日本陸軍の集まりである偕行社」が出版した「南京戦史」の結論を「まずは一番公平な記録と思われる」として紹介し、虐殺された人の数としては「3万人強ということになりましょうか」とし、「私は日本人のひとりとして、中国国民に心からお詫びしたいとおもうのです。」と述べています)。
 この点、「未来を開く 歴史 東アジア3国の近現代史」(高文研)は大変興味深い本です。
 「日本・中国・韓国=共同編集」と銘打たれ3国の歴史研究者、教師らが、3年間、合計10回の会議を経て共同執筆された歴史教材です。200頁ちょっとのボリュームの中で3国の開港(1840年代)から現在に至るまでの3国の状況を描いているので、それほど事細かな記述のものではないのですが、そうした高校の教科書程度の薄い頁数の概説的なものであっても、被害者の側から書かれた叙述を読むと、明治維新以降日本が朝鮮半島で何をしたのか、その植民地支配の下で朝鮮の人々を日本がどれほど虐げ収奪したのかをはじめとして、敗戦までの日本がその帝国主義的膨張と侵略戦争の中で朝鮮、中国の民衆にもたらした被害について、私たちの認識の質の転換を迫られます。日本がアジアの一員として近隣諸国と友好関係を結んでゆこうとするときに、こうした歴史の認識は最低限度不可欠なものであろうと思われます。
 こうした侵略の被害の点を含め、「自国中心の歴史を克服し、東アジアの視野から歴史を学ぶ」(この本の序文の中の言葉)といった視点こそが今日、私たちに必要なことなのであろうと思われます。

3 先日、太平洋戦争の歴史的評価を巡って、自民党の安部晋三幹事長代理は、共産党の志位委員長とのテレビ討論(今年7月30日放映)の中で、「鬼の首を取ったように、お前ら間違っただろうと言うことを同じ日本の中で言い合うことは極めて非生産的だ。」などと述べましたが、歴史から学ぼうとしないこうした姿勢にはあきれるというほかはありませんし、こうした人が政権を担当する可能性を持つなどということは決して許してはならないことでしょう。  「昭和史」の後書きで、半島一利氏は次のように言っています。
「きちんと読めば、歴史は将来に大変大きな教訓を投げかけてくれます。反省の材料を提供してくれるし、あるいは日本人の精神構造の欠点もまたしっかり示してくれます。同じような過ちをくり返させまいということが学べるわけです。ただそれは、私たちが『きちんと学べば』、という条件のもとです。その意思がなければ、歴史はほとんど何も語ってくれません。」
 安部幹事長代理の上記の発言に対する厳しい指摘になっているとともに、私たちの自戒とすべきことです。

4 現在私たちは、憲法改悪を許して軍事大国化への道へ大きく歩み出すのか、それを阻止して改めて国民が平和憲法を選び直すか、といった、社会の大きな転換点の中にいると思います。私たちは、「過ちを繰り返さない」よう、先の15年戦争へ突入してゆく時代のうねりの中で人々がどのように考え行動したか、それが日本を含むアジアの民衆にもたらしたか、そうした歴史と人々の生き様に、『きちんと学び』たいものです。その意味でこの2冊の本は、こうした現在の、若い人たちへの、そして私たちへの大きな贈り物になっているように思えます。

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