弁護士9条の会・おおた
自民党新憲法草案批判
統治機構

1、首相権限の強化と国会の軽視(9条の2の1項、54条1項、72条1項。63条2項、56条2項)
(1)「草案」は、衆議院の解散権を総理大臣に与え(「草案」54条1項)、72条1項に規定する総理大臣の職務権限に、現在の「行政各部の指揮監督」に加えて「行政各部の総合調整」を書き加え、さらに、9条の2の1項により創設する「自衛軍」の最高指揮権者を内閣総理大臣としている。
  衆議院の解散権は、これまで内閣にあるとされており、内閣の全会一致の決定が必要とされていた(そのため先の8月の衆議院解散の際には解散に反対した島村農水大臣を罷免(憲法68条)して強行せざるを得なかった)。草案はこの衆議院解散を首相個人の判断で行えるようにして、国会に対する首相の優位を確保し、「行政各部の総合調整」の付与とも相まって、行政権内部におけるリーダーシップを強化し、更に「自衛軍」の最高指揮権をも与えることにより、国政全体における総理大臣の権限を飛躍的に高めている。
(2)「草案」は、総理大臣その他の国務大臣の国会への出席義務を「職務の遂行上やむを得ない事情のある場合」には免除し(63条2項)、衆・参両院における国会の審議にあたり「総議員の3分の1以上の出席がなければ議事を開」けないないとされていた憲法の規定(56条1項)を削除した。
  迅速かつ効率的に法案を成立させることの出来る国会にしようとするものであり、国権の最高機関(憲法41条)たる国会を軽視するものである。
(3)「草案」は、日本国憲法の目指す、主権者である国民のために、国民世論を反映した民主主義と社会福祉国家の実現に向けた政治を目指すのとは反対の、「構造改革」の為のより効率的で強権的な統治機構への再編を意図している。

2、民主政治の基盤を破壊する「政党規制」(64条の2)
(1)「草案」は、64条の2に、政党に対する規制条項を新設し、1項で「国は・・(政党の)活動と公正の確保及びその健全な発展に努めなければならない。」とし、3項で「政党に関する事項は、法律で定める。」と、政党法の制定を憲法上規定しようとしている。
(2)「草案」は、新自由主義的構造改革を効率的・強権的に推進するための体制としての保守二大政党制政党を確立するために、政党の国家管理・規制を強化しようとするものである。
  議会制民主主義のもとでは、政党の自由な活動があって、国民の声も議会に反映することが出来る。政党は、主権者である国民のさまざまな要求・権利の実現をめざして、その目的実現のために自由に組織し、国民とともに自由闊達に活動できる存在でなければならない(結社の自由)。政党の内部運営と活動が国家権力に介入・監視されるようになってしまえば、国民の多様な要求・価値を実現する政党の存在は許されず、民主的な政権交代も不可能となり、国定政党しか存在しなくなる。結社の自由の保障のないところに民主主義は存在しない。
  「草案」は、わざわざ「政党の政治活動の自由は、制限してはならない」(64条の2の2項)と規定はしている。しかし、政党規制が政党の政治活動の自由を制限する危険性があるからこそ、このような規定をおいてその危険性をなんとか隠蔽しようとするものでしかない。
  「草案」は、「国は、政党が・・・その活動の公正の確保及びその健全な発展」をするように、努めなければならないとしている(同条1項)。
  政党のいかなる目的・活動が、「公正」であり、「健全」とされるのであろうか。それを判断するのは「時の政府」ということになるのであろう。
  「草案」は、「政党に関する事項は、法律で定める」(同条3項)としている。昨年11月17日に発表された自民党の「改憲草案大綱」では、「政党の内部組織及び活動は、民主主義の諸原則に適合的なものでなけれぱならないものとし、その規準については法律でこれを定める」としていた。政党の目的、活動、組織・構成員にいたるまで、時の政府が「政党法」によって、その「規準」を規制することになれば、その「規準」に「適合的」でない政党は非合法とされ、政党は国家が「適合的」とされる範囲内での活動しかできない組織とされてしまう危険性はきわめて大きいと言わざるを得ない。

3、財政における民主主義の形骸化(86条2項・3項、89条1項・2項)
(1)「草案」は、その86条2項・3項で予算案が当該会計年度開始前に国会の議決を得られなかったときは、「議決を経るまでの間、必要な支出をすることできる。」として、「暫定予算」を憲法上の制度にしようとしている。
  これは、主権者の代表機関である国会の議決を経た毎年度の予算に基づき財政をコントロールしようとする財政民主主義の形骸化を進めるものである。軍事行動を展開しなければならない緊急事態に、国民の世論に照らして十分国会で審議することなく、財政上も緊急に対応できる制度として活用される危険性を持つ。こうした点にも、「草案」の軍事上の要求を優先させる意図を読み取ることが出来る。
(2)「草案」は、その日本国憲法89条を1項と2項にわけ、1項で「公金その他の公の財産は、第20条3項の規定による制限を越えて、宗教的活動を行う組織団体の使用、便益もしくは維持のため、支出し、またはその利用に供してはならない。」としている。
  これは、20条3項で、「社会的儀礼の範囲」で行う「宗教活動」を政教分離原則から除外したことに照らして「公の財産の支出及び利用の制限」の例外を認めたものであり、靖国神社への公式参拝の合憲化を、財政面からも規定したものである。
(3)「草案」は、その2項では、「公金その他の公の財産は、国または公共団体の監督の及ばない慈善、教育もしくは博愛の事業に対して支出し、またはその利用に供してはならない。」としている。私立学校に対する公金助成の可否についての文理的解決を図ったものであるが、この条文によると、公金助成をすることと引き換えに国や公共団体による私立学校に対する「監督」に道を開くこととなる危険がある。
(4)なお、「草案」は、財政に関して上記のほかに、83条2項に健全財政の確保、90条1項に会計検査院の検査報告についての国会承認、を規定する。
    これらはいずれも、明文がなくとも、現憲法上も当然に同趣旨に解されるものである。

4、地方自治
(1)「草案」は、地方自治の章について、91条の2(1項 地方自治の本旨、2項 住民の受益の権利と負担分任義務)、91条の3(1項 地方自治の種類)、92条(国および地方自治体の相互野の協力)、94条の2(1項 地方自治体の財務、2項国の財政措置)を新設し、日本国憲法95条(特別法の住民投票)を削除するなど大幅な変更を企図している。
     現在既に、公共サービス、とりわけ福祉、教育、介護、医療等の社会保障関係の公共サービス等、住民生活関連行政に対する国の責任を縮小し、自治体にその責任・権限を移譲(丸投げ)し、公共サービスの削減・スリム化を明確に志向した新自由主義的構造改革を遂行するための国家機構の改編が進行している。
     「草案」は、こうした国家機構の改編の動き更に推し進めるために、住民のための「地方分権」「地方自治」を破壊し、自治体をも「小さな政府」にし、その負担を個々の住民に押しつけようとするものである。
(2)「草案」は、91条の3の1項で、自治体の種類については、、「基礎地方自治体」である市町村と「広域地方自治体」(道州)との2層制を基本にし、市町村こそが基礎的自治体として、基本的に地域の本務を処理すること、道州は広域的自治体として、市町村にできないことを中心に事務処理をすることを定め、いわゆる「補完性の原則」を明らかにしている。
  国の責任のもとに実施されるべき公共サービス部門を効率化・スリム化し、行政経費の削減を推進しようとする「新自由主義的構造改革」は、日本列島の各地で行われている「市町村合併」を、都道府県の再編成と道州制による広域行政化の推進、いわゆる「三位一体改革」(国から地方への権限移譲、税・財源の移譲、交付税制度の廃止・縮小、交付金の削減)等と連動した広域的地方分権推進の「受け皿」として構想しているのである。
(3)「草案」は「地方自治体の経費は、その分担する役割及び責任に応じ、条例の定めるところにより課する地方税のほか、当該地方自治体が自主的に使途を定めることができる財産をもってその財源に充てることを基本にする」(94条の2の1項)としている。
 これは、福祉、教育、介護、医療等の社会保障関係の公共サービスなど、住民に身近な行政についての国の責任と実施を、基礎的自治体に転嫁し、国としての責任を回避しておきながら、その財源は自治体まかせにしようとするものである。こうして地方税、医療保険、介護保険の保険料等が十分に集まらない自治体は、その範囲でその自治体の自己責任でやってくださいということになり(自治体の「自己責任」・地域的受益者負担主義の徹底)、地域格差は大きく広がることとなる。
(4)さらに「草案」は、「住民は、その属する地方自治体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を公正に分任する義務を負う」(91条の3の2項)として、地域住民の「自己責任」に基づく負担で、自治体による公共サービスを享受すべきとしている。
  結局「草案」は、「住民自治」を原則とする地方自治を、「自己責任」を軸にした「住民の参画」(91粂の2)に置き換えようとしている。
  こうしてナショナル・ミニマムとしての公共サービスを実現しようとする国さらには自治体の責務は放棄され、自治体の財政力の格差が、そのまま各自治体の福祉・教育・介護・医療等のサービス水準の格差として放置され、さらにその下で住民個々人の「自己負担」「自己責任」に解消されていくことになる。
(5)こうして国の役割は外交と防衛に特化し、それ以外の広域的行政を道州に移管することによって、国と地方自治体との関係を含めて、この国の統治機構全体が再編され、外交、防衛等の事項については「国と地方自治体は、・・・適切な役割分担を踏まえて、相互に協力しなければならない」(「草案」92条)により、国は地方自治体に協力義務を負わせることとなる。
(6)「草案」は、さらに、日本国憲法95条(特別法の住民投票)「一の地方公共団体のみに適用される特別法は、・・その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。」を削除する。
  沖縄の事態等の下で本来もっと活用されるべき民主的制度を放擲しようとするものである。
(7)こうして「草案」は、日本国憲法のもとで保障されてきた地方自治制度の根幹を破壊し、社会保障・福祉等に対する国の責務を放棄する。こうした、自治体・住民の自己責任を求める地域的受益者負担主義の徹底が、住民になにをもたらすかは明白である。

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